マスコミの中の人

テレビの報道記者が書きたいことを書いています。あ、でも転職するんだった!次は出版社です。

東京への思いは、きっとこれまで何千万もの人が感じてきた、平凡なものだった

東京で暮らし始めて1か月。

久しぶりに北海道の友達とお話しました。

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by Jonathan Kos-Read

 

彼を前にすると、不思議。

1か月暮らしたこの街について、なぜかするすると言葉が出てきた。

これまで特段、なにも感じていないと思っていたのに。

きょうはそのことをまとめてみます。

 

ちなみに彼は北海道出身ではなく、

転勤族で本州を転々とした上で、北海道で働いています。もう3年目。

「住めば都。東京で働いている自分は想像できない。」とのこと。

 

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まだ9時をまわったばかりだというのに、

私たちは重たい扉のバーに入った。

人の多さに少し疲れていたのかもしれないし、

なにかきちんと話したい気分だったのかもしれない。

 

足の細いグラスを持ち上げ、乾杯のジェスチャーをする。

ここは東京のバー。だけど一口飲むと、思ったよりも柔らかい味がした。

「東京慣れた?」

出してもらったナッツを齧りながら、彼が聞いてくる。

「あんまり…。でも、毎日歩いていると楽しいよ。美人が多い。」

「そうかなぁ。俺、札幌に来た時かわいい子多いと思ったけど。」

グラスに付いた汗を指で拭う。

確かにそうなのかな。

「でも、思わず振り返っちゃう美人って、東京で初めて会った気がするんだよね。」

たまに新宿あたりを歩いていると、えっ、と思うような人とすれ違う。

例えば、すごく顔が小さいとか、着ている服のバランスが絶妙とか。

水準が高い。

そこまで考えて、相対評価の渦に自分が飲み込まれている、ということに気づく。

「でも俺は、そもそも人が多いか美人がいるのも当たり前かな、って思っちゃう。」

「数ね。東京にいると数の暴力みたいのをなんとなく感じる。」

「暴力的なの?」

「なんかさ、北海道のローカルニュースで取り上げていたことなんて、ここにいると些細だなって。

毎日いろんなところで事故は起こるし、消防車のサイレンは1日に何度も聞こえるし。もちろん、北海道に住む人が沖縄のことに関心を持てない、ってことと同じ側面はあるんだけどさ。」

この言い方で伝わるだろうか。

「なんていうか、地方がシュリンクしていくことなんて、ここにいると全く感じられないし、感じる必要もないんだよね。」

自分が北海道で追いかけていたことは、いったい何だったのだろう。

 

丸の内線のホームを歩いて、毎朝何百人の人とすれ違う時に、思う。

北海道でなにが起きているか、なんて、ここではあまり大切ではない。

目の前の電車の遅延の方が、よほど重要。

場所が変われば、必要な情報も変わる。

国ってひとくくりにしていても、みんな全然違う方を向いて生きている。 

 

「確かに、北海道で地震が起きました、熊本で地震が起きました、って言っても、あっ、大変だな、で終わっちゃうよな。」

自分がこんなことを感じていたなんて、気づかなかった。

彼と話していると、言葉にすらならないぼんやりとした思いに、輪郭が生まれる。

不思議なことに、それは東京になじんでいる人との会話では、生まれない現象。

 

バーには人が増えてきた。

出身大学の同窓生の話でもちきりのおじさんおばさん。

高そうな仕事鞄をスツールの隣に座らせる男性。

私たちを気にも留めないバーテンたち。

 

「ここはどこなんだろうね。」

現在地がわからない。

 

この1か月、身体の中からブチブチと音が聞こえていた。

何の音だろうって。

少しは気になった。

 

けれども私は毎日8:18の電車に乗らないといけないし、仕事に慣れないといけないし。

東京は北海道の何十倍のスピードで物事が動くし。

「都会無理、とか言って地元にこだわる人が、カッコ悪いと思っていたんだよね。」

だから、音を立てる自分と向き合うことをしなかった。

 

彼が私のグラスを取り上げて飲み干す。

「そんなに酔ってないよ。」

厚紙のコースターが、もうだいぶ濡れて、柔らかくなっている。

でも私はどんなに飲んでも、ここでは酔えない。

どこかが、硬いままだ。

 

「年末、帰ってくるんでしょ。」

「うん。雪だらけのススキノで飲もう。」

「それならいくら酔っぱらっても大丈夫だね。知っている街だもんね。」

 

お会計を済ませ、バーの扉を開けた。

東京のにおい。

 

地方からこの街に出てきた人はみんな、人が多くて辛いと話す。

都会の人は冷たい、とも言う。

自分はもっと、ありきたりじゃない感情を抱くのではないかと思っていた。

 

でも結局、私の中に芽生えたのは、それぞれの地元からこの街にやってきた何百万、何千万の人と違わない気持ちだった。

 

だけど、それを乗り越えた先に、なにかを掴めるのかもしれない。

「これからどうするの?」

彼に聞かれた。

「まだなにも決まっていないよ。しばらく東京で頑張ってみるけど。」

「そういうことじゃなくて、家に帰るのかなって?」

「そういうことか!物足りない?」

「まあね。」

でも私たちは、それぞれ反対の電車に乗って帰った。

明日も働かないといけないから。